研究プロジェクト

 

京都大学人文科学研究所 共同研究班「東アジア災害人文学の構築」

 現代社会は、気候変動にともなう大規模自然災害、地球規模で進行する環境破壊、いままさに人類の脅威となっている感染症など、続発的に襲来し破壊とそれゆえに再創造の契機をもたらす強大な力、総合防災学者の岡田憲夫が提唱する“PersistentDisruptive Stressors(PDSs) ”に曝されている。

 地理的に隣接し、歴史的に深い影響関係にある東アジアは、気候条件において共通の基盤を有し、自然災害にも共通する特徴があり、人的・経済的な緊密な関係性は、今般の感染症の流行とその対応にも現れている。少子高齢化や過疎問題など共通する社会的課題も多く、これらを東アジアに共通する“PDSs”として包括的に捉えることが可能である。

 本研究の目的は、「災害」を広く“PDSs”と捉えて、東アジアにおいて積み重ねられてきた災害対応の歴史を総合的に検討し、災害をめぐって歴史的に形成されてきた思想や文化、社会関係などを、“Sustainabilityの実践知”と見なして、東アジアに共通する特徴と地域ごとの展開の諸相の解明を通じて、「東アジア災害人文学」の輪郭を描き、方向性を示すことにある。


国立民族学博物館 共同研究班「グローバル時代における「寛容性/非寛容性」をめぐるナラティヴ・ポリティクス」

 急激にグローバル化が進展し、人間の移動が激しさを増すとともに、多文化的状況が今後さらに進展することが予想される。西欧の列強と呼ばれた国々では、かつての植民地から大量の移民が流れ込み、ある意味では予想外の、だが、ある意味では、必然の結果とも言うべき、皮肉な現象が起きている。こうした地球規模の社会環境の変容に加えて、従来の口承性や書承性を超越するメディア環境の変容の影響下で、文化的他者認識としての「異人」を迎える側の経験は、その質と量において、かつての「異人論」が想定していた状況とは比べものにならない規模となっている。さらに、この大量移動の時代は、程度の差こそあれ、誰もが自らも異人となる経験を持つことが当たりとなっている。問題は、こうした状況において、大小さまざまなコンフリクトが発生し、「不寛容」社会が出現しつつある点である。

 本研究では、こうした状況を解明し、これに応答するために手がかりとするのが、「異人論」である。文化人類学及び民俗学の学問的伝統においては、外部から訪れる他者、すなわち「異人」に対する歓待や排除、蔑視あるいは畏怖や憧れなどの観念や行動をめぐって、「異人論」と称される研究の蓄積がある。本研究では、「異人論」という視点や方法を再考し、鍛えなおすことで、人文科学の立場から現代的問題の解決の糸口を探ることを目的とする。


ソウル大学校日本研究所 冠廷日本研究プロジェクト「超高齢社会、災害社会 日本の生活世界再編と再生:1995年大地震後の阪神地域に対する人類学的研究」

 本研究は、人類歴史上類にない<超高齢社会>であると同時に災害の脅威が日常化している<災害社会>日本という問題設定を通じて、'1995年阪神淡路大震災後'の神戸地域の再編と再生に対する人類学的研究を遂行する。<高齢化>及び<災害の日常化>の中で'福祉'の領域は持続的に膨張しており、'福祉'をめぐる政治的、社会的競合及び日常的実践は生活世界変動の求心点になっている。

 本共同研究では、<超高齢社会><災害社会>日本の地域社会及び市民社会の再編と再生を考察し、その重要な動力としての'福祉'の領域に注目するものとする。このため<ケアとコミュニティ><市民社会と市民運動><災害と構造、地域再生>というテーマを中心に生活世界の多層的な変化を考察することを目指す。これにより日本社会の動向と展望を分析し現代日本研究の新たな示唆を与えるものとする。

東京大学東アジア藝文書院「民俗学×哲学」研究会

民俗学と哲学の接点を模索する研究会です。